Circle vol.7

ED前ジェイドの話※架空設定

真っ直ぐに自分に向けられた彼女の視線の熱さに、ジェイドは困惑した。
いつ無くなるかもわからない自分の「命」というものに、一片の未練が無いか、と言えば、それは嘘になる。
だからこそ入隊してからは特に、自分にとって大事と思えるものは、なるべく手放すようにしていた。
執着心を持たないように。戦闘時、瞬時に下す判断を誤らないように。

だがここにきて、ジェイドの中で何かが揺れていた。

自分に向けられる、陰りのない満面の笑み。
自分に放たれる、屈託の無い言葉の数々。
自分を慕ってくる真っ直ぐな瞳。

今まで女性に対して、こんな感情は持ったことが無かった。
いや、きちんと向き合った事が無かった、と言うべきか。
それが今彼女によって崩されかけている。

「私らしくも、ないですね。」
そう呟いてようやく我に返ったジェイドは、眼鏡を押さえながら彼女の視線を遮った。
「・・・ニコル。あなたはお父上が亡くなられた事で、自分を見失ってしまっています。
それは一時的な感傷に過ぎません。」
彼女の顔を見ずに、ジェイドはそう言った。彼女は黙って耐えている。
「・・・・冷えてきました。さあ、家の中へお入りなさい。」
そう彼女を促すと、「では。」と再び言って、踵を返そうとした。

「お待ち下さい大佐!」
彼女はその後姿に向かって叫んだ。しかしその声は震えている。
「・・・例え大佐が一時的な感傷とおっしゃられようとも、私の気持ちは変わりません。大佐にとってはご迷惑なだけなのも充分承知しています。でも・・・」
と言って、彼女はジェイドの背中にしがみついた。
「お願いします。今日だけは、今日だけでいいのです。どうか信じて下さい。大佐が私の事を、少しでも哀れと思って下さるのなら・・・。」
そうすがった彼女の瞳から再び、大粒の涙が零れ落ちたようだった。

あなたによって救われてきたのは、むしろ私の方だというのに。

そう思った瞬間、ジェイドの中の何かが、音を立てて剥がれ落ちた。
そして次に気付いた時、自分の腕の中で、彼女を強く抱きしめていた。

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