Circle vol.9

ED前ジェイドの話※架空設定

ND2018。
「今晩の月は私に色んな事を思い出させてくれました。」
さて、と言ってジェイドはようやく椅子から立ち上がった。
閉店後の後片付けをする店主とジェイド以外、店内には誰もいなくなっていた。
「お酒と場所と、店主の時間の提供に感謝しますよ。ありがとうございます。」
と、多すぎる程のガルドをカウンターに置いて、ジェイドは店を出た。
「何があったかは知りやせんが、お身体は大事にして下さいね!」
扉が閉まる音と共に、店主のそんな大声が耳に届いた。

すっかり人気の無くなった夜道を、ジェイドは宿に向かって歩き始めた。
「私の身体は既に、私だけのものではないのですよ。」
そう、私は一生この罪を背負って生き続けなければならないのだ。

ニコルを亡くしてすぐに、ジェイドはレプリカ実験の中止をサフィールに伝えた。どの実験もほぼ途中で放棄する形になったので、そんな無責任な、と彼は食い下がったが、ジェイドの決心が揺らぐわけもなかった。
そして発案者の命によって、生物レプリカ実験を禁忌としたのだった。

ピオニーに釘をさされてから実験を中止にするまで、結局2年近くもかかってしまった。
「若かったのですね、私も。」
と言ってはみるが、自分がそれを決意するために失った代償がどれ程大きかったことか。

それでもまたルークと出会って、自分の一生はレプリカから逃れられないのだとジェイドは改めて悟った。
自分が発案したという罪から逃げ続ける限り、遅かれ早かれいつかまた、自分に罪は巡ってくることだろう。
“Circle”という言葉が、ふと頭の中で響いた。

私はまた、近々研究を再開しようと思います。ニコル。
ルークはあなたにとてもよく似ているのです。彼は完全同位体のレプリカなのですよ。
しかし私は、いつかまた彼に会いたいと思います。そのためにも彼が、いや彼らが一度この世に誕生した以上、その生を存続するためには何が必要で何が足りないのかを、突き詰める必要があるのです。
私はそれを模索するためにこの身を捧げたいと思います。
今更許しは乞いません。
ただどうか最後までそこから見ていて下さい。ニコル、そして・・・ネブリム先生。

そう呟いてからジェイドは、より高く登った輝く月を眩しそうに見上げた。


<終>

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